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広島地方裁判所 昭和35年(む)113号 判決 1960年5月02日

申立人 浜崎徳一

決  定

(申立人氏名略)

右の者の申立にかゝる裁判の執行に対する異議申立事件につき当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件申立を棄却する。

理由

一、申立人の異議理由の要旨は、申立人は先に広島地方裁判所において常習賭博の罪により、懲役六月訴訟費用は共同被告人須藤勉との連帯負担とする、との判決の言渡を受けたのであるが、訴訟費用中連帯負担となるのは須藤勉と申立人との双方に関係のある訴訟費用についてのみであると考えていたところ、広島高等検察庁検察官からの納付告知書によると申立人には無関係な須藤勉の国選弁護人高橋一次に支給した費用金七〇〇円についてまで連帯負担として納付せねばならないとのことであり、申立人としては是は須藤勉が単独で負担すべきものであつて申立人には納付義務はないと思料するので、右検察官の執行指揮を不当として異議の申立に及ぶものである。というのである。

二、先づ右申立人及び須藤勉に対する常習賭博(予備的訴因詐欺)被告事件の訴訟記録を調査するに、第一審において申立人は弁護人を私選し、共犯者である共同被告人須藤勉には最初弁護士高橋一次が国選弁護人として選任され、第一回公判期日(昭和三二年四月二三日)には同人が須藤勉の弁護人として出頭したこと、その後第二回公判期日前に須藤勉は別に弁護人を私選した為弁護人高橋一次は同年五月八日解任されるに至つたので、同弁護人は同月一〇日付で国選弁護人の報酬を放棄すると共に第一回公判期日出頭の日当として金七〇〇円を請求し即日これを受領したこと、同三三年二月一〇日広島地方裁判所は申立人並びに須藤勉に対し「浜崎徳一を懲役六月に処する。(須藤については省略、有罪)訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。」との判決を言渡したのであるが、その訴訟費用としては前記金七〇〇円の外荒木政治外四名の証人に支給した金三、九二二円があり、右各証人はいずれも両名の共同審理の為に取調べたものであること、その後両名はこの判決を不服として控訴したが、いずれも控訴棄却され、申立人は更に上告したが同三五年二月四日上告を棄却された結果、右裁判はその頃確定したこと、以上の各事実が認められる。

一方本件異議申立事件記録によれば広島高等検察庁検察官は同三五年四月九日前記裁判の確定によりその訴訟費用の裁判の執行として、申立人において前記弁護人高橋一次に支給した金七〇〇円を含む金四、六二二円を須藤勉と連帯して納付するよう執行指揮したことが認められる。

三、そこで異議理由の当否について考える。先づ刑事訴訟法第一八二条は共犯の訴訟費用は共犯人に連帯して負担させることができる旨定めているのであるが、この共犯の訴訟費用とは共犯者双方の犯罪事実の認定に関するもので且共同審理中に要した費用をいうのであつて共犯事実に関しないものや、他の共犯者に無関係なものはこれに該らないものというべきである。しかして弁護人高橋一次に支給した金七〇〇円は先に認定の如く申立人の共犯者須藤勉の弁護人として公判期日に出頭した日当であり、申立人とは直接関係がないのみならず、一般的にも国選弁護料は共犯事実認定に関するものとはいえないのであるから、いずれにしろこの金七〇〇円を共犯の訴訟費用と認めることはできないのであつて、これを共犯人の連帯負担とすることは法の許さないところである。とすると結局申立人に連帯負担させることの出来る訴訟費用は共犯事実の共同審理の為に取調べた証人荒木政治等に旅費、日当として支給された金三、九二二円のみということになる。しかるに第一審裁判所はこの点を誤り、金七〇〇円を除外することなく前記の如き判決を言渡し確定したのであるが、この意味では右判決には違法があるといわざるを得ない。

しかしながら一旦判決が確定した以上、たとえ違法な判決であつたとしても、検察官としてはそれが法律上或いは事実上執行不能であるような場合、例えば未決勾留日数が存しないのにこれを本刑に算入した判決(この場合は裁判の客体を欠き、従つてその執行指揮をなす必要がないばかりか、むしろ指揮することは不能である。)を除いては、判決の表示するところに従つて執行指揮をせねばならないのである。

けだし、若し検察官において自由に判決の意味を解釈し、その内容の文理を変更して指揮することになれば、それは実質上検察官が裁判をなすに等しいことになり、更には法的安定性の要求から上訴、非常上告等の法律上認められた手段方法によつてのみ判決の是正変更を認めた法の趣旨が没却されるに至るからである。

しかして本件では第一審判決は申立人に負担させ得べき金額三、九二二円を金七〇〇円超過して連帯負担を命じたのであるが、共犯の訴訟費用を先に説明した如く解する時は、一見この裁判も金三、九二二円を超える部分は客体を欠缺していることになり、その限度で無意義となつて裁判の執行は不能に帰するかにみえる。しかし、本件においては金四、六二二円が現実に訴訟費用として存在するのであり、先に例示した客観的に全く容体のない未決勾留日数の算入の場合とおのずから趣を異にするのである。即ち本件は裁判の客体の有無の問題ではなく、只共犯の訴訟費用の範囲如何という法律解釈の問題にかゝつてくるだけのことで、その解釈の結果先の如き第一審判決は違法であるとの結論がでたにすぎないのである。そして検察官が執行指揮をなすにあたり、斯様な点を自由に解釈し、或いは当否を検討し、更には判決に違法があるとして、その執行指揮を猶予したりすることの許されないこと、従つて一に判決主文に従つて執行を指揮せねばならないこと等は先に説明したとおりであるところ、本件では判決主文には「訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする」とあるだけで弁護人高橋一次に支給した分は連帯負担から除く旨の表示は全然されていないのであるから、検察官においては、この金七〇〇円を不問に附することなく申立人に対し連帯負担として執行指揮すべきことは当然である。とすると本件検察官の執行指揮は将に判決主文にそのまゝ従つてなされたものであつて、そこには何等の瑕疵はなく適法といわざるをえない。

さすれば広島高等検察庁検察官の申立人に対する執行に関する処分には、申立人の主張する不当な点はなく、結局申立人の異議は理由なきに帰するのでこれを棄却することゝする。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 宮本増)

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